センスにまつわるエトセトラ。

生まれてこのかた、自分のセンスが良いとか、他人よりも美的感覚が優れているといったふうには思ったことがない。

いや、高校生の時に遅めに訪れた中二病めいた時期にはもしかするとしばらくそんな時期もあったかもしれないが、そういう特殊な黒い時期以外はほぼないと記憶している。

昔から、何か物をこしらたり何かを描いたり、工夫して快適な環境を生み出すといったようなことは好きでよくやっていたし、手先も決して不器用ではないと自負してはいるが、それでも「センス」というワードで己をジャッジしようとすると何だか自分が場違いなところにいる気がして何とも言えない違和感に襲われる。

曲がりなりにもご世間様から美容師とよばれる職についている以上、センスが良いと自分で思えないのはある種致命的なのかもしれないし、これから気が向かれて当店に赴かれようとしているまだ見ぬお客様にとっては、言いしれぬ不安を覚えさせてしまう事案になるのかもしれない。

だからといって言い訳するわけではないが、この仕事を選んだ時から特に誰からも「センスねえな、お前」などという心ない言葉を浴びせられたことはないことをお伝えしたい(ただ単に僕の周りの方々が超絶いい人だらけだけだったのかもしれないが)。

あくまで自分が自分でそう思えない、という話だ。

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じゃあそもそも「センス」って一体なんだろうな、と思う。

センスがあるとかないとか、良いとか悪いとかってなんだろう、と。

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「センス」をとある辞書で調べると

1「物事の感じや味わいを微妙な点まで悟る働き、感覚。また、それが具体的に表現されたもの。

2判断力、思慮、良識。

とある。

まあ、なんとなくは分かる。

人間の五感などの感覚をセンスというし、程度の差こそあれ人間誰しも感覚に基づいて物事の良し悪しを判断し、表現する。

でもそうなると、それこそ程度の差こそあれ、「センス」は誰にでも存在することになる。

「オレってセンスねえな」みたいなのは単に言葉の問題なんだろうか。

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そんなことを折りに触れてモヤモヤと考えているうち、どこかの雑誌か何かで「センス」を的確に言いあらわしながら、個人的にストンと心に収まる表現をされている方のコラムを見つけた。

その方(どなたかは忘れてしまっている)の表現を借りれば、センスとは

「経験の蓄積による総合的な直感的判断」だそうだ。

さらにその方はこうも言っていた。

「センスのある人とない人にひとつ明確な違いがあるとしたら、それは『心が動いた体験量の差」

「人間の根源的な喜びや世の中の原理に対する好奇心のある人が、徹底的なインプットによるヒントを得て生み出すものがセンスの本質」ということらしい。

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いやはや誠によく表現している。こういう文章表現ができる人のことを「センスが良い」というのかと思うと、このブログの冒頭で述べたような気持ちにならざるを得ない。

つまり、人間誰しも生まれた時から様々な形の小さめな粘土の塊のような「センス」を持ち合わせていて、好奇心などを原動力にして心の動く体験(=インプット)をヒントにして、その粘土を大きくしつつ、様々な形に変化させていく。そんなとこだろうか。

おそらく、このコラムを書いた人だってこれまでにおびただしい数の文章表現に触れ、心が動き、その蓄積により他の誰かの心に収まる文章表現を生み出すことができるようになったに違いない。

そんな彼は「文章センスが良い」のだろうし、この世の中には「料理のセンス」「音楽センス」「お笑いセンス」「運動センス」「TVゲームのセンス」など様々なセンスが存在することになる。「アイドルの追っかけセンス」なんてのもあるかもしれない。

(当然、皆が一様に同じ条件ではなく、センスを身につけるのに相対的なアドバンテージは存在するし、元々の素質も相まって、ある方面のセンスを身につけるのに有利、不利は存在するとは思う)

これまではセンスというものは(とりわけ美的感覚において)特別な人だけが持ち合わせてまことしやかに磨いている特別なもの、という認識があったのかもしれないが、ここまで考えてくると、最近は単に「様々な分野における感覚としての能力とそれに基づく表現」という言葉で言い表すのが自分の中でしっくりくるようになった。

つまり、センスは育てて伸ばせる能力、ということになる。

小さい時に食べられなかったものでも「センスを磨いて」つまり、好奇心による体験を積み重ねて食べられるようになることがある、それと同じだ。

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さらに、センスもスキルと同じように上には上のレベルがいる。いつも自分よりセンスという能力が上の存在と自分を比較して「自分のセンス」についてジャッジしてきたけど、そもそも「心が動いた体験」を重ねてセンスを培うにはそういったある種の「劣等感」が不可欠なのではないか、とも思えるようになってきた。

言い換えれば他の人と比べて「オレってセンスないな」と思うことはセンスを伸ばすためのカギ、とも言える。

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美容師はセンスの仕事、なのかどうかは定かではないが、少なくとも美的センスという分野においては今後も伸ばしていかなければいけないし、うちに来てくださるお客様が気持ちよく信頼していただけるセンスを持ち合わせたいなと思う今日この頃である。

(そしてお客様に「センスが良いですね」と褒められることに強い憧れがある、ということもこの際調子に乗ってお伝えしちゃうのである)

2021.04.12 | Posted in columnComments Closed 

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